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麻辣味とテロワール、そして軟水器(厨房コンシェルジュコラム)
2026/04/01 サービスブログ
2000年代初頭くらいからでしょうか、食の世界では21世紀型グルメブーム、と言ってもいい動きがありました。
「○○ブーム」なんていうものには功罪両面がともないますが、食文化に関する新しい認識や知見、考え方などが広まったり、深まったり、という側面は、このときの「功」の部分かと思います。
街場で開業するフレンチビストロやイタリアントラットリア、スペインバルなど各国料理の(もちろん崩し割烹など日本料理も)お店も増えて、ともすれば少し敷居が(値段も)高いイメージを持たれるフランス料理などを身近にしてくれました。
現代スペイン料理を発火点に「分子調理」などとも呼ばれた料理手法は洋の東西を問わず様々な国の料理に影響を与え、最先端調理器具がシェフたちの味や食感についての追求を助け、また各国の料理が(必ずしも本国そのままではないにせよ)さらに広まったり、認識がアップデートされたりしたと思います。
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たとえば中国料理における「麻辣味」(マーラーウェイ)といったことばや味わいが広く一般に浸透したのもこの頃からだったと記憶しています。
花椒(ホアジャオ)などの舌がビリビリ、ジンジンするような痺れる味わいと、辣油(ラー油)のような唐辛子のヒリヒリした辛さが一体となった味わい。それを広めるのに中心的役割を果たした料理のひとつが「麻婆豆腐」ですね。
それまで日本の町中華で提供されてきた麻婆豆腐は、その多くが唐辛子系の「辣」に偏っていたので、麻辣味の麻婆豆腐は一種新しい味として認知されていきました。
麻婆豆腐発案者として知られる中国の料理人陳氏にリスペクトを表しつつ、「本場の」麻辣味の本格的な味であることをアピールする「陳・麻婆豆腐」という言い方も定着しました。もちろんそれ以前からそうした「麻婆豆腐」を提供してきたお店や商品もありますが。
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食の世界でこの頃広まったことば(いや、知っている人は前から知っていたのでしょうけど)に「テロワール」っていうのもあります。
「大地」や「領地」といった意味合いのフランス語由来のことば。「テロワールを同じくするものは最良の組み合わせで、最上の味わいを醸しだす」とも言われます。
日本でいう「地産地消」とは少し意味合いが異なりますが、重なる部分も多い気がします。
その土地、地方の気候が育む農海産物、発酵食品、お酒など、単に食材の個性や組み合わせだけでなく、その地方の文化や食材の生産といった分野への関心や問題意識も喚起することばだと思います。
ホテルや有名レストランで修業したシェフたちが自分の地元で新たに独立開業し、出身地の「テロワール」を意識した料理を考え、生産者と連携し、地元の人たちにも再認識してもらう、そんな動きも盛んになって、その流れは今も続いているように思います。
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テロワールといえば、基本的すぎて忘れがちですが国や土地による「水」の違いも大きなものがあります。
たとえば軟水と硬水。水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの鉱物由来ミネラル分の含有割合で区別されます。
日本の厚生労働省の基準では硬度100(水1L中に含まれる鉱物ミネラルが100mg)以上を硬水、それ以下を軟水としていますが、WHO(世界保健機関)ではその基準値が120になります。世界的に見て、日本は軟水地域です。
日本の全国平均で硬度は45~50前後、ヨーロッパの主な国々では硬度200以上も珍しくありません。中国、アメリカなども日本に比べればはるかに硬水地域が多いです。
岩盤質のヨーロッパアルプスやピレネー山脈を、長~い時間をかけて水が透過する、その間に多くの鉱物が含まれます。対して急峻な山間を下って海へと至る日本の水は鉱物の含有量は平均的に少なくなるようです(地下水などで硬度の高い地域もあります)。
そして、食基準で見ると、たとえば昆布で出汁をとる、お茶をまろやかに淹れる、などには軟水が適していますが、フランス料理でいうフォンやコンソメでは骨からアクをしっかり出すことが大切で、それには硬水が適している。
日本で出汁を軸とした調理が、フレンチでアクを出した後に泡立てた卵白を入れてアクを吸着させスープを澄ます「クラリフィエ」という技法が、同じく硬水地域の多い中国では鶏のむね肉ミンチで濁りをとり透き通ったスープ「清湯」を作る技法が生まれ、と、そう考えるとまさに「テロワール」、あくまで一例にすぎませんが、その国、その土地の水や食材に合った調理法が発達してきたのかもしれません。
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2000年代初め、今回この稿を担当している私はまだアーテックに在籍していませんでしたが、やはり調理器具販売の仕事をしていたので、地元の食材やテロワールを意識して仕事をするシェフの方たちとも多く出会いました。
そんなシェフのおひとりに京都でイタリアンを営む方がいたのですが、そのシェフが東京で支店を出すにあたって「水」の問題に直面しました。
それは「東京の水は出汁がとれない」。
シェフは「もしもイタリアに“京都”という州があったら」というコンセプトで京野菜や日本の出汁も巧みに使ったイタリアンを提供していて、昆布出汁でパスタを茹でたりもしていました。(これ、試してみておいしかったのでパスタ作るときの定番にしています!濃厚ソースではない魚貝系パスタなどに特にいいです。お試しあれ)
ところが、東京は京都に比べれば硬度が高い「硬水」寄りで、思ったような昆布だしがとれないということでした。
それは世界的な平均から見たらわずかな差かもしれませんが、日本の中でも西と東の「テロワール」でそんな違いが出るのですね。
関東・関西文化ギャップの話でよくネタになる「そば・うどんのつゆの違い」の成り立ちにも影響しているのかもしれません。(もちろん昆布やカツオ節の流通ルートの違いもあるようです)
その水の違いを生んでいる要因のひとつが富士山。かつて大規模な噴火を幾度かしたとき、その膨大な噴出物は上空ジェット気流にのって東へ流れ、関東ローム層に代表される台地を形成しました。その地質が関東の水の成分に影響しています。
なので、関東地区でお客様に依頼されて水質検査などをすると、いわゆるシリカ分である「ケイ素」が多く含まれることがあります。あの食器洗浄機のまわりを真っ白にしてくれる主犯格ですね。
カルシウムやマグネシウムといった他の鉱物分とも反応して強固な「スケール(水中のミネラル分が固まったもの)」を形成し、水を使う機器類、たとえばスチームコンベクションオーブンなどの故障、不調原因にもなります。
スチコンに限らず、水+熱を用いる機器類では水の中のスケール分が熱で蒸発、濃縮されることで頑固な汚れとして固着することが多いので要注意です。
そうしたことを低減するため有効なのが軟水器。ですが、軟水器の中のフィルターカートリッジを定期的に交換するタイプでは、この交換時期を過ぎていたりする例が多く見受けられます。
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私たちアーテックがお客様に提供するサービスのひとつに、清掃や点検など厨房内の様々な課題を年間定期で実施する「厨房おまかせパック」というものがあります。そのサービスで比較的多くご要望いただくのが、この軟水器カートリッジの定期交換管理です。日々、安心・安全・おいしい食事の提供をするため多忙を極める業務厨房において、こうした維持管理についての細かな業務はつい抜け落ちたり、忘れてしまったりすることも。
なので、そうしたパートは業者に任せ、優先度の高い業務に集中できる環境にするのもひとつの選択肢です。
アーテックの会社概要パンフレットに「調理に専念してください。あとは、私たちがやります」とうたっているのですが、これ、弊社のパンフレットにしてはいいキャッチコピーだと思います。(上司には内緒でお願いします・・・)
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私たちはひとつの機器だけではなく、厨房内様々なことに目配りできる”厨房コンシェルジュ”として、定期的に訪問することで管理部門も含めた現場の皆様の業務負荷を軽減し、(たとえそれが弊社の受託範囲でなくても)気づいたことを情報提供するなど、多角的な面で厨房管理のお手伝いが可能です。
たとえば軟水器カートリッジ定期交換に換気設備清掃、ガス機器バーナー清掃など他の課題を組み合わせ、トータルパッケージとしてコストを抑えることもできますので、覚えておいていただけると嬉しいです。
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今、気候の変化や乱獲、管理不足、生産者減による食資源の枯渇、価格高騰など、食に関連した問題は深刻の度を増していますが、機器や厨房サービスを通じて食の現場を支援するわたしたちも含め、食にかかわるみんなが真剣に考え、連携し、少しでもいい方向に進めたらと感じています。
これからも、食を提供する側としても、食を頂く側としても、多くの皆様に「テロワール」の恵みがずーっとあり続けますように。
【厨房コンシェルジュ プロフィール】
株式会社アーテック 関東エリア 営業担当
太田 尚男(Hisao Ota)
【経歴・想い】
畑違いの報道関係の仕事から、
2003年より約10年間、ドイツ製調理機器をレストランなどの外食業界へ販売・営業する会社に勤務。
そこで料理や食文化の面白さにどっぷりと触れ、現在はアーテックの”厨房コンシェルジュ”として現場の皆様の厨房運営をサポートしています。
【好きなこと・趣味】
料理や食材、食文化の歴史や背景を
深く知ること。趣味は映画鑑賞と、
風を感じるオートバイ。
【休日の過ごし方】
愛車のオートバイに乗っているか、
キッチンで自己流の好き勝手な料理に没頭しているかのどちらか。
家庭内でのヒエラルキーは自他ともに認める「最下位」で、妻にはいつも頭が上がりませんが、その分、現場で日々戦う皆様にとっては「一番の味方」でありたいと願っています。
